自分の「実感」に触れる~フォーカシングとは~

  • 自分の「実感」に触れる~フォーカシングとは~

1.はじめに

 カウンセリングでは、相談者のお話を丁寧に聴き、相談者の苦悩が解決・軽減されることを目指します。その際、他者や環境など、苦悩の一因と考えられる周囲のものごとを変えたりなくしたりすること以上に、相談者ご本人の、苦悩に対処する力を高めることを重視します。対処力が増すと、苦悩する程度がやわらぎます。また、問題やストレスがあってもそれにとらわれすぎず、自分らしくのびやかに生きる余裕が生まれてきます。
こうした対処力を高めるための方法や考え方にはさまざまあります。他のコラムで紹介している方法(認知行動療法、ACTなど)も、その1つと言えます。今回は、「フォーカシング」というアプローチについて紹介していきたいと思います。

2.フォーカシングとは

 フォーカシングとは、臨床心理学者のユージン・ジェンドリンが開発したカウンセリングの技法です。ジェンドリンは、たくさんのカウンセリングの事例を分析し、カウンセリングがうまくいくためには、相談者が自分の「実感」に触れることが重要であることを見出しました。
「実感」とは、身体感覚や感情など、体や心で感じられている「感じ」のことを言います。例えば、なんとなくモヤモヤする、胸がギューッとしめつけられる、ソワソワして落ち着かない、などがそうです。そして「『実感』に触れる」とは、上記のような体や心の「感じ」に気づき、注目しながら、自分は何を求めているのか、次にはどんなふうに動いたらいいのだろうか、などを探っていく態度をいいます。人から言われて、あるいは、頭だけで考えてこうした方がいい、こうすべきだ、というのではなく、自分自身の体や心と相談をしながら、納得のいく道を選んでいくことで、自分の人生を主体的に生きていく力が育まれるのです。
 また、フォーカシングでは、「実感」との付き合い方(距離)も重視します。例えば、悲しいことが起きたときに、①何も感じない場合、②しみじみとつらさを味わう場合、③悲しさに圧倒されて取り乱す場合など、人や状況により異なります。①の「何も感じない」は、「実感(ここでは悲しみ)」との距離が遠く触れることができていない状態と言えます。②の「しみじみとつらさを味わう」は、「実感(悲しみ)」と程よい距離でつながっている状態と言えます。③の「悲しさに圧倒されて取り乱す」は、「実感(悲しみ)」との距離が近すぎてのみ込まれている状態と言えます。フォーカシングでは、「実感」を、ないことにせず(①)、圧倒もされず(③)、ほどほどに味わいながら過ごしていけるようになる(②)こと、あるいは、その時々の自分に合わせて、「実感」との距離を自己調整できるようになることを目指します。それにより、問題やストレスがあっても、うまく付き合いながらやっていくことができると考えます。

3.日常の中に取り入れることのできるフォーカシング的過ごし方

 ジェンドリンが開発した技法は、主に1対1のカウンセリングの場で用いられますが、普段の生活の中でも、フォーカシング的過ごし方を取り入れることは可能です。
 例えば、のどがカラカラでカフェに入ったとします。席について、さて何を頼もうと考えたとき、①のどがカラカラだ…冷たくさっぱりしたものがよさそうだ…できれば飲み物で、炭酸の方がよりいいかな…レモンスカッシュはどうだろう…飲んだらすっきりしそうだ…と決めていくのと、②のどはカラカラ…でもおすすめはホットショコラか…うーん、飲むとべとっとしそう…でもここのホットショコラは巷でも話題になっているらしい…しかも期間限定…今を逃したら二度と飲めないかも…と決めていくのとではどちらがフォーカシング的でしょうか?答えは①です。①が、自分の体の「感じ」に沿う選択をしているのに対し、②は、体の「感じ」を後回しにした選択になっています。もちろん、①の方がよくて②はダメとか、いついかなるときも「感じ」を優先しなくてはいけない、というわけではありません。重要なのは、生活の折々で、今自分の体や心がどんな感じなのかに注目し、知っておいてあげようとする態度があることです。その上で、可能な範囲で、「感じ」に沿ってあげられるといいのです。上の例で言うと、今の感じにはレモンスカッシュの方が合うけれど、やはりこの機会を逃すのは惜しいとホットショコラを頼んだとします。その結果、やはり口がべとっして気持ち悪くなりました。けれど、その次に、べとっとした感覚に沿って水を飲み、さっぱりしたとしたら、それはそれでいいのです。
もうひとつ、おすすめのフォーカシング的過ごし方は、一日のどこかで、体に意識を向ける時間を持つことです。できるだけゆったりとした姿勢・気持ちで、体全体をぐるりと、あるいは1か所ずつ確かめていき、どんな感じがしているか点検するのです。気になる箇所があれば、その箇所が求めていそうなことをしてあげられるとなおいいですね。例えば、パンパンに張っている頭をなでる、だる重いふくらはぎをもむ、なんとなく息が詰まる感じがあるので深呼吸をする、胸の部分のモヤモヤと一緒にいるつもりでしばらくボーっとする、など。こうすることで、生活の中で気づかないうちにたまっていくストレスやひずみを、大きくなりすぎないうちにちょこちょこと慰め解消することができ、心身の健康を保ちやすくなります。

4. さいごに

 いかがでしたでしょうか。フォーカシングは、人生をより主体的に、よりしなやかに生きていけるようになることをサポートします。時には立ちどまり、体や心の「感じ」に注意を向けると、思いがけないヒントや気づきを得られるかもしれません。

この記事を書いた人

梶井
梶井Ms. Kajii

40代以上
臨床心理士(登録番号:第15300号)
公認心理師(登録番号:第12114号)

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